■がん転移Q&A - 回答
Q1 がんの転移とは何ですか?浸潤とどう違うのですか?

A 安井 弥
(広島大学大学院医歯薬学総合研究科分子病理研究室・教授)
 がんの転移とは、がん細胞が発生した場所(原発巣)から離れて、リンパ節や肝臓、肺などの他の臓器に移動して定着し、そこで再び増殖して腫瘍(転移性腫瘍)を形成することです。がん細胞が原発巣に留まって増殖しているだけであれば、手術で切除することによって完全に直りますが、色々なところに転移があればそのすべてを取り去ることは事実上不可能です。がんによる死亡原因のほとんどは転移によるといわれています。また、転移によって見つかるがんもありますが、がん細胞の形や性質の類似性を指標として、原発巣が推定されます。
 がん細胞が転移していく主なルートは、リンパ管と血管です。原発巣のがん細胞が周囲にあるリンパ管に侵入し、リンパ流にのってリンパ節に運ばれ、そこで転移性腫瘍をつくることをリンパ行性転移といいます。まず、原発巣の近くのリンパ節に転移し、そこからリンパ管を伝わって次々に遠くのリンパ節まで転移していきます。
 血管を経由する転移を血行性転移といいます。原発巣の近くにある毛細血管や細い静脈にがん細胞が侵入し、血流を介して全身の臓器に転移します。一般的には、静脈の流れにしたがってがん細胞は移動するので、大腸がんでは肝臓に、腎がんでは肺に転移しやすいのですが、必ずしもそうとは限りません。がん細胞によって、転移する臓器に対する親和性に違いがあることが知られており、色々な研究が行なわれています。
 3番目の転移パターンとして、播種性転移があります。これは、人のからだには胸腔(肺のあるところ)や腹腔(消化管や肝臓などのあるところ)という2カ所の隙間があり、それに面した臓器に発生したがんがあたかも種を播いたようにくようにある腹腔や腹腔の別の部位に転移性腫瘍を形成するものです。
 浸潤とは、原発巣のがん細胞が直接に周囲の組織や臓器に広がっていくことです。転移でも、リンパ管や血管にたどり着くまでの最初のステップには、この浸潤の過程が必要です。