■がん転移Q&A - 回答
Q7 がんでない腫瘍も転移しますか?

A 土岐祐一郎
(阪大消化器外科・教授)
 悪性腫瘍は大きくがんと肉腫に分けられます。肉腫も転移するので、厳密にいうとがんでない腫瘍も転移します。しかし、良性腫瘍は基本的には転移しないので、転移は悪性腫瘍(=広い意味でのがん)に特徴的な性質であるということができます。現在、腫瘍が良性か悪性かという診断は病理医が腫瘍組織を顕微鏡で観察し、形態的に判断する方法が最も正確です。しかし一部の甲状腺癌などでは病理診断が難しく、転移したために後から癌であったことがわかる場合もあります。また重要なことは、すべてのがん細胞が転移するのではなく、がん細胞の中の特殊な能力を持ったものだけが転移するということです。一般的には癌が大きくなると転移を起こす頻度も増えてきます。しかし、癌の中でもたちの悪いものは小さい腫瘍でも多数の転移を起こす場合があります。
 一方、転移によく似た現象をしめす病気もあります。代表的なものは細菌や真菌の感染症で、がんと同じように血液を介してほかの臓器へ広がることがあります。興味深いことに、微生物の中には接着分子など癌の転移と同じメカニズムを利用しているものもあります。子宮内膜症という病気は厳密にいうと転移ではありませんが、全身のあちこちに子宮内膜が散らばってしまうという病気です。全身に広がるメカニズムは転移と殆ど同じです。また、異所性の臓器(膵、甲状腺、脾、その他多数)という本来の場所と異なるところに小さな臓器の断片が存在する先天性の奇形は健康な人でも高頻度に見られます。これは胎児発生の初期には臓器がダイナミックに移動し、そのときに断片が生じたものと考えられています。